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2017年7月29日 ブログ, 不動産コラム

1 介護していた妻が入院して

Tさん(夫)とYさん(妻)は子供がいませんでした。Tさんが数年前から認知症になり、最初は自宅でYさんが介護をしていました。しかしだんだん在宅で介護をするのがむずかしくなったため、Tさんは老人ホームに入居することになりました。Tさんの預金の出し入れやホームとの契約はすべてYさんが行いました。

ところがしばらくしてからYさんにガンが見つかり入院することになりました。そのためTさんの預金の管理などをする人がいなくなりました。そこでTさんのケアマネージャーは成年後見人を付けようとして、A司法書士に相談しました。A司法書士は自分が成年後見人になることは了解しましたが、問題は誰が後見開始の申立人になるかでした。申立人は原則としてTさんの親族しかなれないのです。この時点で妻のYさんは病気のため会話をすることも困難になっていました。Tさんには姉、弟、妹がいましたが、いずれも他県に住んでいて日常的な交流はありません。そこでA司法書士はTさんの弟のMさんに連絡し、申立人になってもらうことなりました。家庭裁判所に提出する成年後見開始申立書もA司法書士が作成しました。

こうしてA司法書士がTさんの成年後見人になりました。その1ヶ月後にYさんは亡くなりました。

2 障害者の母親が亡くなって

Kさんには幼い頃の病気が原因で重度の知的障害がありました。Kさんは自宅で父母と弟の4人で暮らしていました。Kさんのお世話はずっと父母、父が亡くなってからは主に母親が行ってきました。
Kさんが60歳の時、母が亡くなりました。その後もKさんは弟さんと二人で暮らしていましたが、弟さんはなかなかKさんのお世話をすることができません。そこでKさんは障害者のグループホームに入所することになり、それを契機に預貯金の管理を成年後見人に任せることになりました。そしてKさんを担当していた障害者地域生活支援センターの職員の方の紹介で、A司法書士がKさんの成年後見人になりました。

3 後見人が本人の妻の遺産分割を行う。

1のYさんには多額の預金がありました。Yさんには子供がいないため、相続人はTさんとYさんの6人の兄弟でした。A司法書士はTさんの成年後見人としてYさんの兄弟全員に連絡を取りました。話し合いの中で法定相続分(Tさんが4分の3、Yさんの兄弟は各24分の1)での分割であれば全員の同意が得られそうだったので、A司法書士は家庭裁判所の了解も得た上で法定相続分による遺産分割協議をまとめました。遺産分割協議では、原則として被後見人の法定相続分を確保することとされています。その後、A司法書士は各銀行に行ってYさんの預金を解約し、相続人に分配しました。

このケースは本人(被後見人)が相続人の場合です。被後見人が死亡した場合は成年後見人が遺産分割協議をすることはできません。ただし後見人が被後見人の相続人から依頼を受けて遺産整理業務を行うことは可能です。

4 本人の生活費を確保するため、後見人が自宅を売却

知的障害のあるSさんは、両親亡き後も兄弟の援助を受け、自宅で一人暮らしをしていました。しかしご自身も70歳を超え、兄弟も高齢になったため、兄弟で話しって障害者のグループホームに入所することになりました。ただそうするとホームの入居費などでそれまで自宅にいたときよりは出費がかさむことになります。計算してみると毎月の出費がSさんの年金収入より3万円くらい多いことになります。Sさんには預金がほとんどないことから、このままではグループホームで暮らし続けることができません。

そこでSさんの成年後見人になったA司法書士はSさんがホームに入る前に住んでいた自宅を売却することを検討しました。まずSさんとSさんの兄弟の了解を得ました。そして不動産業者に仲介を依頼したところ、2000万円で購入したいという人が現れました。自宅の売却には家庭裁判所の許可が必要なので、裁判所の許可も得ました。こうして自宅が売却でき、Sさんは生活費の心配をしなくてよくなりました。

5 司法書士が後見制度支援信託のための成年後見人になる。

Tさんは母親Hさんが認知症になり、預金をおろすこともできなくなったため、Hさんにの成年後見人になろうとして、A司法書士に成年後見開始申立書の作成を依頼しました。TさんによるとHさん名義の預貯金は2000万円くらいとのことです。そうすると本件は成年後見支援信託のケースになります。

名古屋家庭裁判所の基準では、司法書士などの専門職以外の方(例えば親族)が後見人になる場合、本人の金融資産が1200万円を超えるときは、まず専門職が後見人になって預金の大半を信託銀行に預け、その後、後見人を親族に引き継ぐという扱いになっています。これを後見制度支援信託といいます。

A司法書士がこのような説明をTさんにしたところ、Tさんは後見制度支援信託の後見人もA司法書士に依頼したいとのことでした。そこでTさんを申立人、A司法書士を後見人候補者とする申立が行われ、まずはA司法書士がHさんの成年後見人になりました。その後、A司法書士はHさんの預金2000万円の内、1700万円を信託銀行に預け、後見人をTさんに交替しました。

6 成年後見人が本人の死後、遺産整理業務をする。

1のTさんが亡くなりました。成年後見人の任務は本人(被後見人)Tさんの死亡により終了しました。その後、A司法書士がやることは財産目録を作成して裁判所に報告した後に、Tさんの財産を相続人に引き渡すことです。Tさんには子どもがいないので、相続人は姉Bさん、弟Cさん、妹Dさんの3名でした。

3名の相続人は長い間、交流がありませんでした。そこで相続人はA司法書士に対し、相続財産を換金して相続人に3分の1ずつ分配して欲しいと依頼しました。もちろんこれは成年後見人の仕事ではありません。あくまで被後見人の相続人から依頼された新たな業務です。これを遺産整理業務と呼ぶことがあります。

Tさんの財産は預金と自宅の土地、建物です。A司法書士はまず銀行を回って預金を解約し、預り金口座にまとめました。不動産はいったんDさんが相続した後、建物を解体し、土地を売却することになりました。Tさんの財産は相続税が課税されるほどの額でしたので、並行して相続税の確定申告の準備もしなければなりません。A司法書士は連携している不動産会社に土地の売却の仲介を、税理士に相続税の確定申告を依頼しました。

土地の売却後、相続税を支払い、残りを3人に分配しました。翌年の不動産の譲渡所得税の申告も税理士に依頼しました。譲渡所得がDさんに発生した結果、Dさんの住民税、社会保険料が値上がったため、その額を相続財産からDさんに支払いました。すべてが終了したのはTさんが亡くなってから1年6ヶ月後のことでした。